サステナ転職の全体像 — 何から考え、どの順番で動くか
「サステナの仕事に興味はあるんです。でも、自分がどこから入れるのか、まったく地図がなくて」
この一年、この言葉を本当によく聞くようになりました。皆さまも、似た感覚をお持ちではないでしょうか。脱炭素、GX、ESG、サーキュラーエコノミー——言葉は毎日ニュースで流れてくる。求人も確かに増えている。なのに、いざ「自分の場合はどうか」と考えると、途端に霧の中に入る。領域が広すぎて、入口が見えないのです。
僕はIT人材の業界に20年いて、個人としては通算4,200名のキャリア面談をしてきました。その中でこの1〜2年、明らかに「サステナに移りたい」という相談の密度が上がっています。ただ、多くの方が同じ場所でつまずく。それは「サステナ=環境活動家の仕事」という古いイメージと、実際の求人の中身が、まるで噛み合っていないからです。今日はこの霧を晴らすために、僕が面談で使っている地図をそのまま開きます。順番に読めば、皆さまの「最初の一歩」がどこにあるか、輪郭が見えるはずです。
0. 前提 — なぜ今、求人が増えているのか
入口の話に入る前に、なぜサステナ領域の求人がここ数年で構造的に増えたのかを押さえておきましょう。ここを理解しているかどうかで、面接での説得力がまるで変わります。
決定打は「制度」です。2023年3月期以降、有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄が新設され、上場企業は気候変動などへの取り組みを開示する義務を負うようになりました。開示するということは、社内に「開示できる中身」と「それを書ける人」が要るということです。さらにGX推進法が2023年に成立し、GXリーグには数百社規模で企業が参画しています。環境省が公表している「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」でも、環境産業の雇用規模はおおむね数百万人規模で推移してきました。つまりサステナ求人は、意識の高まりというより、法制度と投資マネーが押し出した実需です。ブームではなく、しばらく引かない潮流だと僕は見ています。この前提を、まず自分の中にインストールしてください。
1. 最初の分岐 — サステナは「4つの現在地」で考える
ここからが本題です。「サステナの仕事」を一枚岩で考えるから霧が出る。僕は面談で、この領域を4つの現在地という道具で切り分けています。社内で呼んでいる用語なのですが、これが一番迷子を減らせます。
4つとは、①開示・IR型(統合報告書やCDP・TCFD/ISSB対応で、会社の非財務情報を整える仕事)、②事業実装型(脱炭素の技術・製品・サービスそのものを作る仕事。再エネ、蓄電、LCA設計など)、③推進・変革型(大企業のサステナ推進部で、部門横断のプロジェクトを回す仕事)、④ベンチャー型(サステナビリティを事業の中核にした若い会社で、何でもやる仕事)。この4つは、求められる能力も、年収の付き方も、入りやすさも、まるで違います。同じ「サステナ転職」でも、現在地が違えば戦い方が別物になるのです。まず、自分がどこに惹かれているのかを言葉にするところから始めましょう。
1-1. なぜ「現在地」を先に決めるのか
順番の話です。多くの方が求人票から入ります。気持ちは分かりますが、これが遠回りの元です。求人票は「募集する側の言葉」で書かれていて、同じ「サステナ推進担当」でも、①の開示実務を指す会社もあれば、③の全社プロジェクト運営を指す会社もある。現在地の物差しを持たずに求人票を50件眺めても、違いが解像度を持たないまま流れていきます。先に自分の現在地を1〜2つに絞ってから求人を見る。順番を逆にするだけで、探索のノイズが半分に減ります。これは僕の体感値ですが、面談でこの順番を守った方は、応募までのスピードが目に見えて速くなります。
2. 現在地①②③④の中身 — 何をやり、誰が向くか
4つを一つずつ、現場の手触りで説明します。
①開示・IR型。これは会計・IR・経営企画の血筋に近い仕事です。Scope1・2・3(自社排出+サプライチェーン全体の排出)の集計、GHGプロトコルに沿った算定、統合報告書の編集、投資家からのESG評価機関への回答。地味に見えて、いま最も需要が立っている領域です。理由は0章のとおり、開示が義務になったから。経理・監査・IR・コンサル出身の方が驚くほどスムーズに移れます。「文系だからサステナは無理」という思い込みは、この①を知らないだけです。
②事業実装型。再エネ発電、蓄電池、EV充電、CO2回収、リサイクル技術、LCA(ライフサイクルアセスメント)設計など、脱炭素を「モノとして」作る側です。技術系のバックグラウンドが効きます。エネルギー、化学、機械、素材の出身者が中心。ここは景気ではなくGX投資に引っ張られているので、求人の息が長い。
③推進・変革型。大企業のサステナビリティ推進部やGX推進室。全社の削減目標を各事業部に落とし込み、抵抗を受けながら前に進める仕事です。必要なのは専門知識より部門横断で人を動かす力。事業会社で企画やPMをやってきた方の受け皿になります。
④ベンチャー型。サステナを事業の背骨に据えたスタートアップ。役割は流動的で、開示も営業も採用も一人で見ることになる。裁量とスピードは最大、安定は最小。この向き不向きは、次の年収の話と深く絡みます。詳しくはベンチャーの採用ニーズの記事で掘り下げました。
2-1. よくある失敗 — 「情熱」だけで④に飛ぶ
ここで一つ、面談で何度も見てきた失敗を共有します。サステナへの情熱が強い方ほど、いきなり④ベンチャー型に飛び込もうとします。志は尊いのですが、生活基盤・年収・家族の状況を計算せずに飛ぶと、半年で消耗して撤退し、「やっぱり自分には向いていなかった」と誤った結論を出してしまう。情熱の大きさと、飛び込む先の適切さは、別の問題です。①や③で足場を作ってから④へ移る、という順番も十分に王道です。急がば回れ、を地でいく領域だと思っています。
3. 動く順番 — 「棚卸し → 現在地 → 翻訳 → 応募」
現在地が見えたら、次は動く順番です。僕が勧めている手順は4ステップ。所要はトータルで週末2回、と思ってください。
ステップ1・棚卸し(60分)。白紙のメモを3枚用意します。1枚目に「これまでやってきた具体的な仕事」、2枚目に「その中で数字や仕組みを扱った経験」、3枚目に「人を巻き込んで動かした経験」。サステナの4つの現在地は、実はこの3枚のどれかに接続しています。①③は2枚目3枚目、②は1枚目、④は全部。
ステップ2・現在地の仮決め(30分)。4つのうち、自分の3枚と一番つながる現在地を1〜2つに絞ります。
ステップ3・翻訳(90分)。ここが最重要です。今の仕事の経験を、サステナの言葉に翻訳します。たとえば「経理で連結決算をやっていた」は、①では「Scope3を含む排出量の全社集計に近い構造の業務経験」と翻訳できる。「工場の改善活動をしていた」は、②では「排出削減の現場実装の経験」になる。未経験に見える人の9割は、未経験ではなく翻訳前です。この一文だけでも覚えて帰ってください。
ステップ4・応募(随時)。翻訳ができて初めて、求人票が意味を持って読めます。ここまで来てから応募すると、志望動機が「情熱の表明」ではなく「経験の地続き」になり、通過率が変わります。
4. 年収とギャップ — 期待値を先に握る
順番の話の最後に、お金の現実を正直に置いておきます。ここで嘘をつくと、後で必ず跳ね返るからです。
サステナ転職は「必ず年収が上がる」ものではありません。①開示・IR型で専門性を評価されれば上がることも多い一方、④ベンチャー型では一時的に下がることもあります。②③は前職の水準を横滑りさせやすい。これはあくまで僕の面談での体感値で、統計値ではありませんが、傾向として頭に入れておくと期待値のズレで消耗せずに済みます。年収の具体は年収リアルの記事で、現在地別に整理しました。「サステナは尊い仕事だから薄給で当然」という空気に、僕は与しません。制度と投資が押し上げている実需の領域である以上、専門性はきちんと値付けされるべきです。そこは強めに申し上げておきます。
5. 資格と学び直し — やる前に順番を間違えない
「まず資格を取ってから」と考える方が多いので、ここも触れます。GHG算定やLCA、サステナビリティ関連の検定など、学べるものは確かにあります。ただ、資格は現在地を決めた後の武器であって、現在地を決める前の免罪符ではありません。3章の翻訳をやらずに資格だけ積むと、「資格はあるが自分の経験とつながっていない人」になり、面接で深く聞かれると崩れます。順番は、現在地 → 翻訳 → 足りない部分を資格で補強、です。この順番だけは、逆にしないでください。
(結論)霧の正体は「広さ」だった
まとめます。①サステナ求人が増えたのは意識ではなく制度と投資の実需。②領域は「開示・IR型/事業実装型/推進・変革型/ベンチャー型」の4つの現在地に切り分ける。③動く順番は棚卸し→現在地→翻訳→応募。④未経験に見える人の多くは、未経験ではなく翻訳前。⑤資格は現在地を決めた後の武器。
サステナ転職の霧の正体は、難しさではなく「広さ」でした。広い野原は、一枚の地図があれば、ただの歩きやすい道になります。皆さまが今日、自分の現在地を一つ言葉にできたなら、それが最初の一歩です。
皆さんいかがでしたでしょうか。まずは自分の現在地を掴むところから。15問の適性診断で、4つのうちどこに向いているかを言語化してみてください。では今日もがんばりましょう。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。