ホンネ2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

サステナ転職の年収リアル — 上がる人と、下がる人

「環境の仕事に移りたいんです。ただ、正直、給料が下がるのが怖くて」

サステナ領域への転職相談で、この一言を挟まない方はほとんどいません。志は高い。脱炭素も、循環経済も、本気でやりたい。でも生活がある。皆さま、この二つを天秤にかけて、動けないまま何ヶ月も過ぎていませんか。

先に、僕がこの数年の面談で見てきた実感を、留保なしで一つだけ言い切ります。サステナ転職で年収が下がる人と上がる人は、業界を変えたかどうかでは分かれていません。「何を売りにして移ったか」で分かれています。同じ「サステナに行きたい」でも、志を売りにした人は下がり、技能を売りにした人は上がる。今日はこの分岐を、できるだけ正直に分解します。数字はほとんどが僕の体感値の目安なので、その旨は都度はっきり申し上げます。

0. 前提 — なぜ「志」は値段がつきにくいのか

身も蓋もない話から始めます。ミッションへの共感は、それ自体には値段がつきません。誤解のないように申し上げると、共感が無価値だという話ではありません。共感は「この会社を選ぶ理由」にはなっても、「この人に高い給料を払う理由」にはならない、という構造の話です。

採用する側の内側に立つと分かります。サステナビリティに本気の会社ほど、応募者の9割が「御社のミッションに共感して」と書いてきます。共感はもはや差別化になりません。差別化になるのは、その共感を事業の前に進める具体的な技能です。GHG排出量を実際に算定できる、LCA(ライフサイクルアセスメント)を回せる、TCFDやISSBの開示文書を書ける、補助金の申請を通したことがある。志は入場券で、技能が値札です。この一行が、今日の記事の背骨です。

1. フレーム「志・橋・技」 — 年収の落ち方を決める3階層

面談で年収の見立てを説明するとき、僕が社内で使っている道具があります。「志・橋・技(こころざし・はし・わざ)」という3階層です。人が転職市場に差し出すものを、下から順に3つに積む考え方だと思ってください。

技(わざ)は一番下の土台で、具体的な専門技能。橋(はし)は真ん中で、前職の業務とサステナ領域をつなぐ移植可能な経験(財務、法務、人事、プロジェクト管理、営業など)。志(こころざし)は一番上で、動機と価値観です。年収が下がる人は、上二段が薄くて「志」一枚で移ろうとします。年収が保たれる人は「橋」を、上がる人は「技」を売りにしています。順番を間違えると、志だけが宙に浮きます。

1-1. 「志だけ」で移ると何が起きるか

大企業の管理部門から、志一枚でサステナベンチャーの「サステナビリティ推進担当」に飛び込む——このパターンが一番、年収の下げ幅が大きくなりやすい、というのが僕の体感です。理由は二つあります。ひとつは、推進担当という職種が新しく、企業側も相場を持っていないこと。もうひとつは、前職の年収が「大企業の看板と年功」で作られていた場合、その値段は転職市場では引き継がれないことです。看板を脱いだ瞬間、値段は「その人が単体で稼げる額」に再計算されます。

1-2. 「橋」を意識すると下げ止まる

一方、同じ管理部門でも「僕は財務のプロで、その武器を使ってサステナファイナンスやサステナビリティ・リンク・ローンの実務を担いたい」と橋を架けて移る人は、下げ止まりやすい。財務という技能はサステナ領域でもそのまま値段がつくからです。橋とは、要するに「業界は変えるが、職種は変えない」という移り方です。これが最も安全な下げ止め方だと、僕は面談のたびに感じています。

2. 年収が「上がる人」の共通点

では上がる人は何をしているのか。僕の周囲の実感で言うと、上がった人には共通点が3つあります。

①希少で検証可能な技能を持っている。先ほど挙げたGHG算定、LCA、TCFD/ISSB開示、環境法規制対応、補助金・グリーンファイナンスの実務。これらは「できます」ではなく「これをやって、この成果が出た」と検証可能な形で語れると、一気に値札が上がります。②規制と補助金の追い風が吹いている領域にいる。2022年に東証プライム市場でTCFDに沿った開示が実質的に求められ、2023年3月期からは有価証券報告書でサステナビリティ情報の記載欄が新設されました(金融庁の開示府令改正)。制度が人材需要を作った典型で、開示実務ができる人は明確に不足しています。③「コスト部門」ではなく「事業部門」に立っている。同じサステナでも、CSRの延長で語られる守りのポジションより、GX関連の新規事業や、脱炭素をテーマにしたプロダクト開発など、売上に近い側の方が値段は上がりやすい。

年収レンジの目安を、僕の体感値としてだけ添えます(統計値ではありません)。開示・算定の専門実務で確かな実績がある人は、大企業で700万〜1,000万円台、専門コンサルやファンド系ではそれ以上の水準を見ることもあります。一方、推進担当を志だけで始める場合は、400万〜600万円台からの再スタートになることが珍しくない、という肌感です。あくまで幅の話で、個人差は非常に大きいです。

3. 大企業からベンチャーへ — 「下がる」の中身を分解する

「サステナベンチャーに行くと年収が下がる」とよく言われます。これは半分本当で、半分は語弊があります。分解すると、下がるのは「現金の月給」で、増えるのは「裁量」と「ストックオプション(新株予約権)という将来の期待値」であることが多い。つまり、報酬の一部を今の現金から将来のリスク資産に振り替えている、という取引です。

ここで率直に申し上げます。ストックオプションは、当たれば大きいが、当たらないことも普通にあります。上場やM&Aに至らなければ紙のままです。だから「SOがあるから実質下がっていません」という説明を、額面どおり受け取るのは危険です。僕が面談でお願いしているのは、現金の下げ幅だけを見て、それを何年間、生活として許容できるかを先に計算すること。SOは、そのうえで乗ってくる「宝くじ付き」だと捉える。この順番なら、夢に足元をすくわれません。

もう一つ、ベンチャーには「役割の広さ」という見えにくい報酬があります。大企業で開示の一部だけを担当していた人が、ベンチャーでは戦略から実装まで丸ごと持つ。この経験は数年後の市場価値を押し上げます。目先の月給は下がっても、3年後の値札を上げる投資になっている——このケースは実際にあります。ただしそれは「広い役割をちゃんと成果に変えられた人」に限る、という留保も同時につけておきます。

4. 年収を下げずに移る — 実務の3手順

読んだ人が今日やれる手順に落とします。所要はそれぞれ30分ほどです。

手順①:白紙に「技」を3つ書き出す。今の仕事で、サステナ領域にそのまま持ち込める具体技能を3つ。「調整力」のような抽象語は禁止です。「有報の非財務情報のドラフトを2期分書いた」「Scope1・2の算定をExcelで内製化した」のように、検証可能な粒度まで下ろす。ここが埋まらない人は、まず今の職場で埋める作戦に切り替えた方が、結果的に近道です。

手順②:狙う求人を「職種軸」で並べ替える。「サステナ」で検索すると推進担当ばかり出てきますが、財務・法務・人事・PMなど職種軸で見ると、橋の架かる求人が見つかります。業界を変えて職種を残す求人は、年収が下げ止まりやすい。

手順③:オファー時に「現金」と「SO」を分けて紙に書く。提示が来たら、現金年収の増減と、SOの条件(付与数・行使価格・ベスティング期間)を別々の行に書き出す。混ぜて「トータルで上がります」と説明されたら、必ず分けて考える。これだけで、判断の精度がまるで変わります。

5. 公的統計との距離感 — 数字にどう向き合うか

最後に、数字との付き合い方です。サステナ職種は新しく、職種別の年収を正確に映す公的統計はまだ整っていません。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」は職種・年齢別の賃金を毎年公表していますが、「サステナビリティ推進」という区分はそこにありません。だから世に出回る「サステナ職の平均年収◯◯万円」という数字の多くは、特定の求人媒体の登録者データや、一部の集計にもとづく参考値です。出典と母集団を確認せずに平均値を信じないこと——これはサステナ領域に限らず、転職の数字すべてに言えます。

僕がこの記事で出した数字も、ほとんどが体感値の目安です。制度の話(開示府令の改正やTCFDの位置づけ)だけは事実として書きましたが、年収の帯はあくまで幅として受け取ってください。大事なのは平均ではなく、あなた個人の「技」に、市場が今いくらの値札をつけるかです。平均は他人の話、値札はあなたの話です。

(結論)志は入場券、技は値札

まとめます。①サステナ転職の年収は、業界を変えたかではなく「何を売りにして移ったか」で分かれる。②志・橋・技の3階層で、志だけで移ると下がり、橋で下げ止まり、技で上がる。③ベンチャーの「下がる」は現金と将来期待の振り替えで、SOは分けて考える。④手順は「技を3つ書く→職種軸で探す→現金とSOを分ける」。⑤公的統計に職種区分はなく、出回る平均値は出典を疑う。

志を捨てろという話では、まったくありません。志は移る理由として本物であっていい。ただ、その志に生活を支えさせないために、技という土台を先に固める。順番さえ守れば、サステナへの移動は「我慢して給料を下げる転職」ではなく、「値札を上げていく転職」に変わります。

皆さんいかがでしたでしょうか。自分の「技」が市場でどう見えるか、まずは15問の適性診断で棚卸しから。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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