職域マップ2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

循環経済で働く — サーキュラーエコノミー人材のキャリア

「サーキュラーエコノミーに関わりたいんですけど、それって結局リサイクル会社に転職するってことですか?」

循環経済の領域でキャリアを考え始めた方から、僕が一番よく受ける質問がこれです。皆さま、この問いに自分なりの答えを持てているでしょうか。率直に言うと、この質問の立て方そのものが、循環経済という仕事の広さを取りこぼしています。循環経済は「回収して砕く仕事」ではなく、「モノが捨てられない設計に社会を作り替える仕事」です。回収はその一部にすぎません。今日はこの領域の仕事を、僕が面談で使っている地図に沿って、丸ごと開いてみます。

先に立場を明かしておくと、僕はIT人材業界で20年、個人としては通算4,200名のキャリア面談をしてきました。循環経済の専門家ではありません。ただ、この2〜3年で「静脈産業に行きたい」「リユース事業を立ち上げたい」という相談が明らかに増えていて、その手触りは持っています。数字の断定はできませんが、体感として、5年前にはほぼ来なかった相談です。

0. 前提 — なぜ今、循環経済に仕事が生まれているのか

本題の前に、地殻変動の話を1つだけ。日本は2000年に循環型社会形成推進基本法を作り、以来ずっと「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」を旗印にしてきました。ここまでは皆さまもご存じでしょう。変わったのはここ数年です。2022年に施行されたプラスチック資源循環促進法で、製品の設計段階から廃棄・回収までを一気通貫で考える発想が、法律の言葉になりました。環境省も「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への移行を成長戦略として明確に掲げています。

ここが今回の隠れた主役です。従来の3Rは「出てしまったゴミをどう処理するか」という川下の話でした。循環経済は「そもそもゴミが出ない作り方・売り方・戻し方」を川上から設計する話に軸足が移っています。この移動が、まったく新しい職種を生んでいます。処理場の中だけでなく、メーカーの設計室、経営企画、IT開発、物流の現場にまで仕事が染み出した——これが「循環経済に仕事が生まれている」の中身です。

1. 「動脈」と「静脈」— 循環経済を読む2語

ここで僕が面談で必ず使う言葉を紹介します。動脈産業と静脈産業という対です。業界の方には常識でも、外から来る方には効く補助線なので、あえて名前を付けて説明します。

動脈産業とは、資源を採って・作って・売る、モノを世に送り出す側の産業です。メーカー、小売、商社。血液を全身に送る動脈のイメージですね。対して静脈産業とは、使い終わったモノを回収し・分解し・素材に戻す、社会から資源を戻す側の産業です。廃棄物処理、リサイクル、中古買取。二酸化炭素を回収して心臓に戻す静脈の役割です。

従来、この2つは別々の世界でした。メーカーの人は自社製品が捨てられた後を知らず、処理業者は何が流れてくるか選べない。循環経済の仕事とは、この分断された動脈と静脈を「つなぐ」仕事の総称です。僕はこれを勝手に「つなぎ役の経済」と呼んでいます。回収する仕事も、設計する仕事も、この一本の血管を閉じるための、それぞれの持ち場だと考えると、循環経済の求人票がぜんぶ同じ地図の上に並びます。

2. 職域マップ — 循環経済の5つの持ち場

では「つなぎ役の経済」の中に、具体的にどんな仕事があるのか。僕の整理では、大きく5つの持ち場に分かれます。求人数の断定はできないので割合は書きませんが、面談での出会いやすさの体感つきで並べます。

2-1. 静脈産業のDX — 一番人が足りていない持ち場

まず、回収・選別・リサイクルの現場をデジタルで作り替える仕事です。何が、いつ、どこから、どれだけ戻ってくるか。これがわからないと静脈産業は在庫も設備も読めません。ここにトレーサビリティ(追跡可能性)のシステムを入れる。回収ルートを最適化する。選別ラインにAIカメラを入れて素材を自動判別する。この持ち場は、IT・データ分析の経験がそのまま武器になります。僕の体感では、循環経済で一番「経験者が足りていない」と聞くのがここです。前職がSIerや事業会社の情シスだった方が、静脈産業のDX担当として重宝される例を何度か見ています。

2-2. マテリアルリサイクルの技術・オペレーション

回収した素材を、実際に使える資源へ戻す中核の仕事です。マテリアルリサイクル(素材として再生する方式)は、混ざり物を減らし純度を上げるほど価値が上がる、地道で技術的な世界です。化学、素材、プラント運転の経験者が活きます。ここは製造現場に近い持ち場で、EVバッテリーや金属の再資源化のように、「都市鉱山」と呼ばれる分野は投資も採用も動いています。数字は控えますが、素材メーカー出身者が転じる王道ルートの1つです。

2-3. エコデザイン・製品企画 — 川上で「捨てられない」を仕込む

3つ目は動脈側、メーカーの中の仕事です。設計段階で分解しやすく・素材を混ぜず・長く使えるように作る。これがエコデザイン(環境配慮設計)です。修理できる製品、部品を交換できる製品、素材を1種類にそろえた製品。設計者・商品企画・購買の人が、循環を前提に判断軸を入れ替える仕事で、メーカーのプロダクト経験がそのまま接続します。

2-4. リユース・シェアリングの事業開発

そもそも新品を作らずに回す事業です。中古品の買取・再販、サブスクリプション、修理して売り直すリファービッシュ。ここは事業開発・マーケ・ECの色が濃く、廃棄物の知識より「使い終わったモノに、もう一度値段をつける」商売のセンスが問われます。前職が小売・EC・商社という方が入りやすい持ち場です。

2-5. EPR対応・ルール設計 — 静かに増えている専門職

5つ目は、制度と向き合う仕事です。拡大生産者責任(EPR)という考え方が世界的に強まっています。作った企業が、その製品が捨てられる段階の責任まで負う、という原則です。EUの規制、国内の各種リサイクル法への対応、回収スキームの構築、業界団体との調整。地味ですが、この持ち場は法規制が動くたびに新しく生まれる専門職で、法務・渉外・サステナビリティ推進の経験が効きます。誤解がないように申し上げると、ここは花形には見えませんが、循環経済を本当に回すのはこの持ち場だと僕は思っています。

3. どの持ち場に、あなたの経験は接続するか

5つの持ち場を並べたのは、「循環経済=処理業界への転職」という思い込みを外したかったからです。あらためて見ると、接続点は業界を横断しています。IT出身なら2-1、素材・化学なら2-2、メーカーの設計・企画なら2-3、小売・ECなら2-4、法務・渉外なら2-5。循環経済は、新しい専門知識を一から積む場所ではなく、今の専門を「循環」という軸で置き直す場所です。これは僕が面談で何度も口にする言い切りです。

下の表は、統計値ではなく僕の面談体感にもとづく目安です。数字ではなく「接続の向き」を見てください。

あなたの現職接続しやすい持ち場持ち込める武器
SIer・情シス・データ分析静脈産業のDX(2-1)トレーサビリティ設計・業務改善
素材・化学・プラントマテリアルリサイクル(2-2)純度・歩留まり・設備運転
メーカーの設計・商品企画エコデザイン(2-3)製品分解性・部品共通化の発想
小売・EC・商社リユース事業開発(2-4)中古品の値付けと集客
法務・渉外・サステナ推進EPR対応(2-5)規制読解と社外調整

もう一度言います。この表は求人数を示すものではありません。あくまで「どの持ち場なら、あなたの引き出しが最初から開いているか」の目安です。

4. 面談での使い方 — 「回収の話」から入らない

実戦の話をします。循環経済の企業の面接で、多くの方がやりがちな失敗が1つあります。それはいきなり「リサイクルに貢献したい」という理念から話し始めてしまうことです。理念は大事ですが、それだけだと「気持ちはわかったが、で、何ができる人?」で止まります。

効くのは逆の順番です。まず自分の持ち場(1〜5のどれか)を名指しして、そこで何ができるかを具体で語る。その上で、なぜ循環という軸でそれをやりたいのかを最後に一言添える。「私は静脈産業のデータ基盤を作れます。前職で◯◯の在庫可視化をやりました。それを、戻ってくる資源が読めない現場でやりたい」。この順番なら、理念と実務が地続きになります。異業種からサステナ領域へ移る記事でも書きますが、循環経済の採用側が本当に不安なのは、志の高さではなく、業界未経験でも回せるのかという一点です。その不安を、持ち場の具体で消してあげてください。

5. よくある失敗 — 「静脈だけ」「動脈だけ」で見る

もう1つ、キャリア設計の失敗を挙げます。静脈産業だけ、あるいは動脈側の1社だけを見て循環経済を判断してしまうことです。処理現場を1日見て「泥臭くて自分には無理」と結論する方もいれば、メーカーのサステナ推進室を見て「きれいごとばかり」と離れる方もいます。どちらも、血管の片側しか見ていません。

循環経済のおもしろさは、動脈と静脈のあいだにあります。設計を変えれば回収が楽になり、回収データが読めれば設計が変わる。この往復に立てる人は、まだ多くありません。だから僕は面談で、「片側の求人票で好き嫌いを決めないでください」と必ず言います。理由は単純で、この領域で長く価値を出す人は、たいてい両側を行き来しているからです。

6. 今日からの一歩 — 3枚のメモ

最後に、今日できる実務を。所要15分で終わります。白紙のメモを3枚用意してください。

1枚目「持ち場」:この記事の5つの持ち場から、自分の経験が最初に接続する1つを選び、その理由を1行。2枚目「武器」:前職の実績のうち、その持ち場で使えるものを具体で3つ。数字があれば数字で。3枚目「軸」:なぜ循環という軸でそれをやりたいか、自分の言葉で2文。理念の作文ではなく、腹落ちしている理由を。この3枚が書けたら、あなたの循環経済への転職は、もう「リサイクル会社に行くらしい」という霧の中ではなく、地図の上の1点に立っています。

(結論)循環経済は、専門の乗り換えではなく置き直し

まとめます。①循環経済は処理業界のことではなく、動脈と静脈を「つなぐ」仕事の総称。②持ち場は5つあり、IT・素材・設計・商売・制度と、既存の専門ごとに入口が違う。③自分の経験は捨てるのではなく、循環という軸で置き直す。④面談は理念でなく持ち場の具体から。⑤片側だけで好き嫌いを決めない。

皆さんいかがでしたでしょうか。自分がどの持ち場に立っているのか、まずは現在地の棚卸しから始めてみてください。15問の適性診断が、その最初の地図になります。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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